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市街化区域外の農地・耕作放棄地こそが苦悩の種? 再建築不可物件の現場から考える“百害”と活用の可能性
みなさん、こんばんは。
再建築不可物件コンサルタントの田中です。
今回は、耕作放棄地や農地について。

はじめに
市街化区域以外、特に市街化調整区域や農地・里山林の中にある土地は、様々なリスクがつきまといます。
その中でも「耕作放棄地」は、不動産所有者や地域にとって負担のひとつです。
本記事では、耕作放棄地の実態、拡大・縮小の見通し、なぜ放棄地になるか、放置することのリスクを整理しながら、不動産コンサルタントとして伝えたい視点を述べます。
1. 日本にどのくらい耕作放棄地があるか
まずはデータから見てみましょう。
- 農林水産省・内閣府系の資料によれば、耕作放棄地(主観ベース) の面積は平成27年時点で約 42万3,000ヘクタール に上っていました。
- また、荒廃農地(客観ベース) の面積は、平成26年には27万6,000ヘクタールで、そのうち再生利用可能なものが半分程度、再生困難なものが残りと推計されていました。
- 最新では、耕地(田畑を含む)の総面積は令和4年時点で 432万5,000ヘクタール。
- ただし、農林業センサスで耕作放棄地の項目は2020年から廃止され、以降は荒廃農地などで近似的に把握されている状況です。
- 歴史的推移を見ると、昭和60年(1985年)頃には耕作放棄地は約13万ヘクタール程度で横ばい傾向だったものが、平成以降、急速に増加に転じたという経緯があります。
- 一部研究では、2020年時点で荒廃農地が約28万4,000ヘクタール程度と見積もられているというデータもあります。
したがって、放棄地や荒廃地は全国で数十万ヘクタール単位で存在しており、農地総面積に対しても無視できない規模です。
2. なぜ耕作放棄地になるのか(主な要因)
耕作放棄地になる背景には複数の要因が複雑に絡み合っています。主なものを挙げつつ、いろいろな視点で注意したい点を交えて解説します。
(1) 高齢化・後継者不足
農業従事者の平均年齢は年々上昇しており、後継者がいない農家が増えています。
高齢となった所有者が子孫に継がせず、農作を断念するケースが多いです。
(2) 経営性・コスト負担
- 肥料・資材・機械燃料・人件費などのコスト上昇
- 収穫価格の低迷
- 小規模経営ゆえに効率化が進めにくい構造
こうした要素で収益性が見合わず、採算をとるのが難しい農地は放棄されがちです.
(3) 土地の分散・地形・立地条件の不利
- 所有地があちこちに散在していて作業・管理が効率的でない
- 傾斜地、土質不利、排水が悪い、水利条件が悪い土地
- 道路アクセスが困難、運搬コストが高い
こうした“使いにくさ”が放棄を加速させます。
(4) 規制・制度上の制約
- 農地法や条例など、転用・用途変更・建築制限の制約
- 地方自治体や農業委員会の許可・手続きの煩雑さ
- 補助金・助成制度が地域・条件で偏在している
これらが参入の障壁となります。
(5) 自然要因・環境リスク
- 猪・鹿・イノシシなどの獣害
- 雑草や荒廃化による土壌劣化
- 気象変動(豪雨・干ばつ・土砂崩れなど)の影響
- 隣接地からの侵入・荒廃進行
(6) 不在地主・管理放棄
- 所有者が遠方に住んでいて定期的な管理ができない
- 相続放置による権利関係混乱
- 土地使用の意思や関心が薄い所有者
複数要素が重なって「使われない → さらに劣化 → 利用困難 → 放棄継続」というスパイラルに陥るケースが多く見られます。
3. 今後の耕作放棄地の拡大または縮小の予測・見通し
将来を見通すモデル研究や政策動向から、耕作放棄地がどう変動するかを考えます。
(A) モデル予測の分析
ある研究では、地域特性を考慮した機械学習モデルを用いて、将来の耕作放棄量を予測する取り組みが行われています。
この種の予測では、すでに放棄が進んでいる地域や条件不利地がさらに放棄拡大傾向にある可能性が示唆されています。
(B) 政策・社会変化からの見通し
- 人口減少・過疎化の進行
地方での人口減少が続けば、農村地域での耕作可能な労働力はさらに減るため、放棄地拡大圧力は強い。 - 担い手支援・集約化政策
国・地方自治体が「農地集積化」「農地中間管理機構」「企業参入支援」「農福連携」などの支援を強化すれば、放棄地解消が進む可能性もあります。 - 技術革新・スマート農業
ICT、ドローン、ロボット農業、水管理技術などが普及すれば、少ない人員でも効率的に管理できるようになり、従来は放棄対象だった土地を再活用できる可能性もある。 - 気候変動・異常気象リスク
一方、豪雨頻発や干ばつ・水害リスクの高まりは、地勢や標高・排水能力で不利な土地をさらに使いづらくする可能性もあります。 - 補助金・農地政策の予算配分変化
補助金制度が縮小されたり対象条件が厳しくなると、再生インセンティブが下がる恐れもあります。
これらを踏まえると、条件不利地・中山間地・傾斜地などでは耕作放棄地は拡大する傾向が続く可能性が高いですが、政策介入・技術革新・地域ビジョンの推進次第で縮小に向かう地域も出るでしょう。
一部予測では、2030年までに農業従事者減少により、2020年比で耕作面積が92万ヘクタール程度減少する可能性も指摘されています。
4. “百害あって一利なし”――耕作放棄地を放置するリスク・害悪
耕作放棄地をそのまま放置することには、様々なデメリットが発生します。以下「不動産コンサルタント」「土地所有者」「地域住民」それぞれの立場を交えて整理します。
(1) 土地価値・資産価値の劣化
- 雑草・草木の侵入・樹木化で更なる整備コストが増す
- 排水・土壌の劣化が進行し、将来の再利用(農業・建築等)が難しくなる
- 景観悪化により周辺地価にマイナス影響を与える可能性
(2) 不法投棄・ゴミ不法処分の温床
手入れされない土地は、不法投棄、廃車・ゴミの廃棄場になりやすく、行政からの指導・罰則・補填負担のリスクが発生します。
(3) 防災・安全リスクの増大
- 雑草や樹木が密生することで火災リスクが高まる
- 土砂崩れ・斜面崩壊・落石の危険が増す
- 視界不良で隣地や通行路への危害リスク
(4) 生態系・衛生・虫害問題
- 害虫・野生動物の住みかとなって、隣接農地や住居地域へ被害拡大
- 雑草の種子飛散で周辺農地の雑草繁茂を誘発
- ネズミ・蚊など衛生害虫の繁殖拠点
(5) 管理責任・維持コストの放棄負担
- 所有者にとって、定期除草・剪定・施肥・排水管理などの維持コストが定期的にかかる
- 相続や所有権移転で権利関係が複雑になっていると、管理・処分の打着点が見つけにくい
(6) 地域・行政的負荷
- 地域景観の荒廃、集落維持意欲低下
- 地域防災・水管理・景観整備への負担増加
- 地方自治体への監視・是正指導コスト
これらを放置したままにしておくと、土地という資産が“負債”化してしまうケースは珍しくありません。だからこそ、「百害あって一利なし」と言えるのです。
5. 不動産コンサルタント視点での示唆・提言
最後に、不動産コンサルタントとして意識すべきポイントと、放棄地付き物件を扱う際の視点を述べます。
✔ 放棄地物件を扱う際の着眼点
- 現地調査の徹底
雑草・樹木密生度、排水状態、土壌の状態、アクセス道路の状況、越境樹木・隣地影響を必ずチェック。 - 権利関係の整理
所有者が遠隔地・相続関係不明・境界未確定というケースが多いので、登記簿・固定資産台帳・過去売買履歴などを細かく洗う。 - 再生可能性・用途見込みの検討
たとえ農地として使えないとしても、里山保全、雑木利用、ソーラー発電(農地転用可否要検討)、緑地活用など代替用途を視野に入れる。 - 補助金・助成制度を活用
地方自治体・国が出している荒廃農地再生支援、里地里山整備支援、農地転用支援などを調べておく。 - 維持管理コストを見込んだ価格設定
放棄地には維持コストがつきまとうため、その分を見込んだ価格(事業リスク料)を反映させる。 - リスク説明の徹底
購入者、利用希望者に対して、火災リスク・樹木倒壊リスク・不法投棄リスクなどの可能性を説明すべき。
✔ 戦略的視点・差別化ポイント
- 再生可能性を見込んで“再価値化提案型”案件にする(例:里山整備、ソーラーパネル、ログハウス、趣味農園など)。
- 地域との連携(自治体、農協、NPO、移住支援団体)を活用して、補助金・地域資源と組み合わせる。
- 保有して放置せず、早期に用途変更・分割処分・管理転貸を視野に入れることで“負債化”を最小化する。
まとめ
- 日本の耕作放棄地は、かつての13万ヘクタール程度から平成期以降急激に拡大し、平成27年時点で約42万3,000ヘクタールに達していました。
- 耕作放棄地となる要因は、高齢化・後継者不在、経営性悪化、立地不利、制度制約、自然リスク、不在地主など多岐にわたります。
- 今後は、政策支援や技術革新で一部地域では解消傾向が出る可能性もある一方で、条件不利地域では拡大が続くことが予想されます。
- 放棄地を放置することは、所有者・地域双方にとって深刻なリスクを孕み、「百害あって一利なし」といえる状況になり得ます。
- 不動産コンサルタントとしては、現地調査・権利整理・コスト計算・再用途提案などを徹底し、放棄地を“価値転換可能な資産”へと導く視点が重要です。
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